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子どもが「自分で決める」
大切さと難しさ

2022年4月13日

 

 こんにちは。青砥美穂です。

 今回のテーマは、子どもが「自分で決める」大切さと難しさです。

 子どもと過ごしていく中で、子どもの大切な局面に「重要な決断」をしなくてはいけないことは何度もやってきますよね。例えば、わかりやすい例でいうと、受験をするかどうか、するならどこの学校を受けるか、また、習い事を辞めたくなったとき本当に辞めるかどうか、他にも2つの素晴らしいチャンスを手にしたけれどどちらかに決めなくてはいけなくてどっちにするか、などなどの大きな決断から日常の細かいけれど重要な決断までたくさんあります。

 そんなとき、子どもに「自分で決める」機会を与え、それを応援されようとする親御さんはとても多いです。「自分で決める」ということは、自分の人生をしっかり生きていくために、そして、自分の決断に責任をもってたくましく切り開いていくためにとても重要なことだと思います。幼い頃から自分で決めるというチャンスをもてたなら、この行為とそこから生じる感情、思考、行動、経験だけでも本当に多くのことを学んでいけるでしょう。

 ですが、親御さんの見守りの元、子どもが「自分で決める」というのはとても難しいことが多いのではないでしょうか。というのも、子どもにとっての決めること自体の難しさはもちろん、そばで見守る親にとっても非常に難しいことが多いからです。ついつい、口を出し過ぎてしまったり、代わりに決めてしまいそうになったり、子どもが決めるまで待てなかったり、イライラしてしまったりなどのお話をよくききます。

 子どもの大切な局面における「決める」という作業。これまで、この局面にたくさん親御さんからご相談をいただき、また、子どもたちとも向き合わせてもらい、私自身も本当にたくさんのことを学ばせてもらってきました。

 今回はその学びの中から、子どもが「自分で決める」ことを見守ったり協力したりしたいときに、親やそばにいる大人が押さえておくと役立つかもしれない4ステップを共有させてください。

 

1. 子どもが「察する天才」だということを忘れない

 皆さんご存知の通り、子どもは自分にとって重要な周りの空気を読んだり期待を感じたりする能力がものすごく高いですよね。特に親や先生、友人たちなどの期待や願いにとても敏感です。もうこれは本当に敏感すぎるくらい敏感です。わかっていないだろうと思うこともたいていわかってしまっているというのを私は子どもたちと過ごす時間の中でたくさん教えられてきました。

 そして、子どもたちは多くの場合、そんなふうに気づいてしまった期待や願いにできることならちゃんと応えたいと思っています。

 それなので、もし自分の本心がその人たちの願いや期待と違う時、自分の気持ちを隠したり押し殺したりしてしまうケースも多く出てきます。そして、それを繰り返すうちに自分の本当の気持ちがわからなくなってしまうという状態に陥ってしまった子どもたちにもたくさん出会ってきました。また、自分には期待に応えることが無理だとわかるとヤケになってしまったり問題行動を起こしたりなどということも出てきます。

 親の期待にこたえたい子どもたちの敏感さとその思いにこれまで本当に何度も驚かされたり胸を締め付けられたりしてきました。ですから、何か大切な決断を子どもがしようとしているときは、「子どもは察する天才」ということを思い出すことは非常に重要だと感じています。

 

2.  期待に応えたい子どもの気持ちを一緒に分類して整理してみる

 何かを決めようとしている子どもたちの話をきかせてもらっていると、上記でも述べたように、自分の気持ちではなく、親御さんや先生など周りの人の気持ちを自分の気持ちのように話してくれる子どもたちが多いです。

 そんな時にやってみて役立つことの多かった一つのことは、自分の頭の中で聞こえる「自分の心からの声」「誰かや何か(自分ではない人やもの)の声」を分けて整理、観察していくという作業です。フィルターのない自分の声、何かのフィルターがある自分の声というふうにも分類できるかもしれません。何が良い悪いではなく、そこにあるものを洗い出し、じっくりみていくのです。

 一つの例をあげてみます。もうずっと昔の話ですが、習い事の絵画教室をやめるかやめないかで迷っている小学生の女の子がいました。中学受験が近づいてきていて受験勉強の時間をしっかり確保しなくてはいけないため、受験には関係ない絵画教室は受験が終わるまで休む、またはやめるという決断をしようとしていました。親御さんは、「絵が大好きな子だから続けさせてあげたい気持ちはあるけれど、そんなことをやっている場合なのかという焦りもある。最終的にはどちらでもいいから本人が本当にどうしたいかで決めて欲しい。」とおっしゃっていました。

 私がその小学生の女の子に「本当の本当の気持ちを教えてくれない?」ときいてみるとぽつりぽつりと話してくれました。「絵を描くのが本当に大好きだから続けたい」「けど、それだとちゃんと宿題する時間がなくなる」「気も散る」「受験で落ちた時に絵のせいになるからもう絵画教室はやめようかなあと思って。。。」

 それなので、ゆっくりと頭の中に聞こえてくる声に耳を澄ませ、どれが誰の気持ちや言葉かを一緒に整理し、さらに深掘っていってみました。絵を描くのが大好きで絵画教室を続けたいのは自分の気持ち。宿題する時間がなくなるし、気も散るし、受験で落ちた時に絵のせいになると言ったのはお母さん。

 それ以外にも自分のピュアな気持ちは何を言っているのか、他に頭の中に誰のどんな声がきこえるか、整理してみました。すると以下のような情報がまずあがってきました:

 

 ●自分絵が好き。絵を描きたい。絵画教室を辞めたくない。受験も頑張りたい。絵画教室に行っていてもきちんと勉強できるし、良い気分転換になると思う。でも、落ちた時に絵をやっていたからと言われるのは嫌。自分は落ちたとしても絵のせいだとは思わない。そうならないように受験勉強にも取り組みたい。

 ●両親受験を頑張って欲しい。絵が好きな気持ちもわかる。でも受験勉強は大変だから絵はしばらく休んでもいいんじゃないか。時間が足りなくなるのではないか。どうしてもやりたいなら続けて欲しい。でも、しっかり勉強して欲しい。

 ●友達楽しい習い事やめて頑張っているからあなたもそうすべき。一緒に頑張ろう。

 ●塾の先生受験に関係ないことは今はいっさいやらなくていい。そんなに甘くない。

 

 これをもとに、それぞれの声とまた自分の中で対話していきます。途中登場人物が増えたり消えたりするかもしれませんし、対話する中で自分の気持ちが変わっていくかもしれません。時間のかかる作業ですが、これを繰り返して最終的に決断していきました。

 ピュアな自分の気持ちをあらためて知って俯瞰的に眺めることは、どのような決断になるとしても(自分のピュアな気持ちにそわない決断になったとしても)自分を知っていく上でとても重要だと思います。この一つの決断のあとにも人生は続いていきますから、他の誰でもない自分の人生を生きていくためには、自分を知るということが大きなキーとなると考えています。そしてそれが自分の個性、特性、ユニークネスにも繋がっていくと思います。

 つまり、「自分で決める」ためには、自分を知ることが必要になってくるのです。

 

3. 子ども(と自分)のモヤモヤや葛藤の時間を応援する

 「自分で決める」という作業は、通常とても大変です。自分の気持ちだけでも色々あるのに、いろんな人の気持ちを自動的に察してしまったり、それだけではなくていろんなことを言われたりするケースが多いので尚更です。考えようとするとすごくモヤモヤしたり、葛藤したり、時間もかかるので、もう嫌で逃げ出したくなることもあると思います。

 そんなとき、その子どもがモヤモヤや葛藤を抱えている状況を応援してあげられたら大きな力になると思います。人は、モヤモヤや葛藤を乗り越えてこそ大きく成長していくこと、だからこそ今、そのモヤモヤや葛藤を抱えていること自体がまず素晴らしいということを伝えてあげるのはどうでしょう。私たちもそうやってモヤモヤしたり葛藤したり、時には逃げたり、そういうのを繰り返しながら成長してきました。そのことを共有してあげてもいいかもしれません。逃げ出したくなっている気持ちへの何よりの応援になることと思います。

 そして、同時にご自身のモヤモヤや葛藤も応援してあげてはいかがでしょう。子どもが何か大きな決断をするときは、親御さんも大きなストレスを抱えている可能性が高いと思います。自分の価値観を押し付けたくなったり、先回りしてやってあげたくなったりする気持ちを抑えたり、本当にこれでいいのだろうかと悩んだり、いろんなことがあると思います。そんなご自身もまた素晴らしい成長につながる体験をされている、応援されるべき状況にいるということを讃えてみるのはどうでしょう。

 

4. 「決めたからこそ始まるかけがえのない学び」を意識し、楽しむ

 何かを決めたら、それは終わりではなくその決断をしたからこそ始まる新しい経験と学びが続きます。自分で決めたからこそ湧いてくる感情や経験できることが本当にたくさんありますよね。私は、多くの子どもたちの決断とその後をみてきて、実は決断自体には正解も不正解もないのではないかと思っています。決断自体よりもそこから何を経験し学んでいくかがずっと重要になるということを何度も何度も見せてもらったからです。

 自分のした決断を「良い決断だった」と言えるように努力したり、反対にすごく後悔したり、だからこそ決断を変更したり。。どれも自分で決めたからこそ経験できる素晴らしい気づきになっていくはずで、そこには他責の念はありません。自分で決めたからこそ自分で責任をとって進んでいこうとできるのです。そこに本当にたくさんの学びがあると感じています。

 上記の絵画教室をやめるかどうかで悩んでいた小学生は、最終的に大好きな絵画教室だからやめないという決断をし、親御さんもそれを応援されることになりました。ですが、それから2ヶ月経ったある日、急に自分から絵画教室をやめるという決断をして話しに来てくれました。理由をきいてみると、自分の本当の気持ちを大切にする習慣を身につけて自分と対話していたら、絵は受験が終わるまでは時間の決まっている絵画教室ではなく自宅で自分の好きなときに描く方が今の自分にあっているという結論に達したからとのことでした。自分で決めるということを勇気を出してやってみて周りがそれを応援してくれたからこそ、自信をもってさらに主体的にこれからのことを考えられるようになったと話してくれました。

 決めたことから生じる心の変化や成長、そこに着目しかけがえのない学びとして一緒に楽しんでみるのはいかがでしょう。

 

 「自分で決める」のは子どもにとっても親にとっても非常に大変で、怖いことかもしれません。けれど、だからこそ学べることもまたたくさんたくさんあり、それが人生を豊かにしていってくれていることをいつも子どもたち、親御さんたちから学ばせてもらっています。

 

 

 

 お読みいただきありがとうございました。

続いて、脳神経科学からの音声コメント(あおとのぉと)はこちらです。

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