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「じゃあどうしたいの?」の答えが

でてこないときに

〜「解決」ではなく「癒し」から始まる『再生』〜

2022年8月17日

 

 こんにちは。青砥美穂です。

 先日、もうかれこれ10年以上の付き合いになる学生たちと久しぶりに会いました。一番長い学生は1歳半の時から知っているのでもう18年!おむつやランドセルだった彼らがもう成人して、大人になって会えるなんて、そして今も変わらず色んな話し合いをさせてもらえるなんて、「時が流れるギフトってこういうことなのかなあ」なんてとても幸せな気持ちにさえてもらいました。 

 生徒たちにはなんでも話してしまう私なので、年齢や関係を超え、お互いの色んなことを知っています。これまで一緒にさまざまな感情を共有してきた時間をあらためて振り返りながら気づいたことがあったので、今回はそれを共有させてください。 

 子どもであっても大人であっても、みんな生きていれば、楽しいこと、嬉しいことはもちろん、辛い経験、辛い思いをすることがありますよね。 

 人間関係がうまくいかない

 今取り組んでいること(勉強、部活、仕事やその他)で結果が思うようにでない

 自分に自信が持てない

 未来が不安で仕方ない

 理由はわからないけどなぜかすごく気持ちが落ち込んでしまう 

 などなど 

 みんな色んな辛さを乗り越えて魅力的な人に成長していくなあと思いつつ、「どうしようもなく辛い時」どう乗り越えてきたかなあ、そんなことを振り返ってみました。 

 そして、一つのキーワードに気がつきました。 

 それは「癒し」です。 

 何か問題を抱えるとき、私たちはどうしてもすぐに「解決」しようと課題解決型の思考でアプローチしてしまいがちではないでしょうか。

もちろん、それでうまくいくこともたくさんあると思います。 

ですが、現場で子どもたちと過ごしてきた中で、解決型のアプローチでは解決しないケースもたくさんみてきました。 

 

 以前、学校に行きたくないという中学生のNくんがいました。

 色んな理由があって学校がイヤになり家に閉じこもることが多くなっている時に出会いました。 

 彼がそのとき話してくれたことはこんな内容でした: 

初めは、「どうしたら学校にいけるのか?」と親や先生にきかれた。それがわかったら自分でも苦労しないと思いつつ、色々やってみたけどどうしても行けなかった。そのうち学校には行かなくていいと言われるようになったけど、今度は「学校に行かない代わりに何がしたいの?」「どうしたいの?」ときかれるようになって今はそれに答えられない自分が辛い。

「自分がどうしたいのかわからない」 

 何かしら問題を抱えて悩み続けている子どもたち(大人も)実はこんなふうに感じていて、共有してくれることがとても多いです。 

 これは当然と言えば当然なのかもしれません。 

 悩みに悩んでいるときは、精神的にヘトヘトになっていることが多く、心理的安全の真逆である危機状態になっている可能性も高いです。そのような状況では正常に何かを考えたり、決断したりすることは難しい可能性が高いでしょう。 

 そんなとき、解決しようにも課題を明確にすることすら難しいかもしれません。まずは解決ではなく、回復するところからスタートする必要があるのではないでしょうか。 

 悩み、落ち込み、疲れ果てて状況がクリアにみえなくなっている状況からまずはじっくり回復して、そこで初めて 

「どうありたいか」 「どうしたいか」 ということがうまれている ように感じます。

そして、その回復のためには、「癒しの時間」がとても大切になってくるのではないでしょうか。

 では、具体的に「癒しの時間」はどんな時間でしょうか。

 どうやったら、疲れた心、失った自信を癒せるでしょう。

 もちろん唯一解はないのですが、Nくん含めこれまで取り組んでうまく次に繋がっていくことが多かった3つのフェーズをご紹介させてください:

 

① 外部からのポジティブ環境に浸るフェーズ

② 自分でも自分をポジティブに認めていけるようになるフェーズ

③ 自分を大切に愛でていくフェーズ(自分をリラックスさせ楽しませる) 

 

① 外部からのポジティブに浸るフェーズ

 悩みの渦のなかにいて、エネルギーも自信も喪失してしまっているときは、なかなか自分一人でそこから這い上がって切り替えるのは難しいと思います。そんなときは、親や先生など周りの人(外部)にだからこそできることがあると感じています。

 それが「ポジティブに浸ってもらうこと」です。 

 ポイントは3つ:

 a) とにかく「あなたの味方」であることを伝える

 b) その子の思い、それがなんであれ、ただただありのまま受け止め、寄り添う

 c) その子やその状況のポジティブな面をできるだけ多く伝えていく

 Nくんも、落ち込んだり悩んだりしている間にすっかり自分のことが嫌になってしまったと話してくれていました。家でもずっと学校に行けない自分は怠け者だと自分を責めてばかりいたそうです。

 それなので、どんな話もどんなNくんのことも受け止めて寄り添わせてもらった上で、Nくんや今のNくんの状況の素敵なところをたくさん指摘させてもらいました。例えば、「問題を人のせいにせず人を責めずにいること」「違和感を大切にしているところ」「この悩みからNくんならではの大切なことを学んで成長しそうなこと」などなどたくさん伝えさせてもらいました。大切なのは心から伝えることだと思っています。「本気」は伝わりやすいです。

 

② 自分でも自分をポジティブに認めていけるようになるフェーズ 

 外部からのポジティブに浸る時間をしばらく繰り返し過ごしていくと、だんだんと冷静になり自分でも自分のことを客観的に捉えられていくようになります。

 Nくんも自分の捉え方が変化してきました。 「全てではないけど、自分のポジティブな面もみられるようになってきた。」「自信を取り戻してきた」と話してくれました。

 (このような経験を積んでいくと、将来は①を飛ばして自分で②にすぐ取り組めるようになる可能性も上がりますよね。)

 

③ 自分を大切に愛でていくフェーズ(自分をリラックスさせ楽しませる)

  次に、自分を大切に愛でていくフェーズになります。自分を癒す時に、「自分がリラックスできること」「自分の好きなこと」をたくさんやろうということは多くの人が言うことかもしれません。自分を楽しませたり喜ばせたりリラックスさせることは、自分を元気にしてくれます。フォーカスを今の問題や悩みではなく、自分の好きなことに向けてポジティブな感情をもつことで、問題や悩みがなくなっていったりする可能性もあります。

 ですが、あまりに自分の心が疲れすぎていたり、自信を失って自分への嫌悪感が強くなっていたりするときは、自分を大切にしようという気持ちになれなかったり、何にリラックスできるか、何が好きなのかさえわからなくなったりするケースも多いです。または仮にそういうことをしても心からリラックスしたり楽しんだりできなかったりします。それなので①と②でまず自分を整え、自分を大切にできる状態をつくります。

 その上で、自分がリラックスできること、楽しいこと、ワクワクすることなどをやっていき、エネルギーを取り戻していきます。

 Nくんは絵を描くのが好きで絵を描いているとているときが落ち着くと言っていましたが、やはり少し前までは全然落ち着いて絵を描く気分になれずにいたようでした。それが冷静に自分をみれるようになり少し自信を取り戻してからは、また絵を描くことで気分転換をしたり楽しんだりできるようになったとのことでした。他にも、食べたいおやつを食べたり、散歩をしたり、自分の小さな喜びをどんどん積み重ねていったようです。

 そしてついに「自分がどうしたいか」というのがみえてきたそうです。そうなってくると、本来自分がもっている良さがどんどん顔を出すことが多く、私はそれをとても眩しくみてきました。Nくんの場合は、半年ほど経った頃でした。癒しに要する時間も個人差がありますが、ここまで辿り着くのに時間をゆっくりかけることはとても大切なのではないでしょうか。そばにいる親や教師は、「待つ」ことがとても重要そうですね。

 同時に、周りの大人たち(特に親御さんたち)は、悩み苦しむ子どもを見守っている中で、自分自身も心理的危機状態になってしまうことが多いです。そんなとき、子どもだけでなく、ご自身のことも癒しながら一緒にゆったりすることの大切さも思い出してみてはいかがでしょう。周りの人たちがゆったりした気持ちでいてくれることは、悩める子どもたちにとっても非常に力になると思います。

 

「癒しの時間」の大きな力

 子どもたちに何度も何度も教えてもらったので、共有させてもらいました。

 次回は、この「自分がどうしたいか」をどう見つけどう自分のハッピーに結びつけていくかについて実例とともに一緒に考えさせていただけたらと思います。

お読みいただきありがとうございました。

つづいて、この記事に関する神経科学からの音声コメントあおとのぉとはこちら